第156話 悲嘆-15

「やっぱり朝は少ないですね」
「まだ始まったばかりだからな。忙しくなるのは午後からだろう」

9時を回っても弔問客はなく、木野と久保田は手持無沙汰だった。
それでも10時を過ぎたころから少しずつ弔問客が見え始めた。
そして、木野の予想通り、午後になると背広のままの人、礼服を着た人、
多くの弔問客が訪れた。

夕方にはその数はさらに増え、リビングに置かれたテーブル席は
常に満席状態が続いた。
それでも大きな混乱もなく、香織と卓郎も弔問客一人一人に丁寧に応対していた。

夜9時30分、すべての弔問客が返り、片倉家1日目の葬儀は終了となった。
「木野さん、これ皆さんで召し上がってください」
後片付けに来た料理屋が寿司を持ってきた。

「なに、いいの?」
「ええ、お世話になった片倉社長のご葬儀ですから。
 これくらいのことさせて下さい」
「ありがとう。それじゃ遠慮なくいただくよ。
みんな、お寿司の差し入れをもらったから集まれや」
「ひゅう、やったね」
「いやあ、おなかすいたよ」
木野の掛け声で、全員がリビングの中央に集まった。

「さあ、香織さんと関さんもご一緒にどうぞ」
「はい、頂きます」
「それにしても何人いらしたんですかね?」
「朝からの長丁場だし、交代でやっていたから把握できませんね」

「誰か当ててみな」受付をしていた木野は弔問客の数を知っていた。
「200人!」
「そんなに少ないことはないだろう。250人は来ているよ」
「答えは345人だ」木野が正解を告げた。

「そんなにですか?」
「結構見えたんだな」
「それでも時間を設定していないと、うまく回るもんなんだな」

久保田が感心したように言った。
「こんなに多くの方が来てくれたのも社長のお人柄ですね、香織さん」
「はい、父を心から尊敬します」
短い沈黙の中、優しい笑顔でいっぱいの片倉の遺影に全員の視線が注がれた。

Copyright(c) 2010 xxx All Rights Reserved.