第162話 船出-4

井上がエンジンを止めた。
それまで騒がしかったエンジン音が来て、心地よい風の音だけが耳に入ってきた。

木野はデッキに設置されているプレーヤーで、
香織から預かっていたCDをかけた。
風の音とさわやかな音楽は見事にコラボレーションされていた。

「さあ、香織さん、お父さんを海に帰してあげてください」
木野は骨壺の蓋を開けた。

片倉の遺骨は事前にパウダー状に粉砕されていた。

香織はその細かくなった遺灰を、そっと海に撒いた。
そしてすべての遺灰がまかれると、水筒に入れて持ってきたコーヒーとブランデーを流し、
最後に切り花を撒いた。

「それでは黙とうを捧げます」香織と琢朗は片倉の遺灰がまかれた方を向いたまま
目を閉じた。

『カーン、カーン、カーン』木野は船鐘を鳴らし、一緒に黙祷した。
”社長、新生誠心葬祭丸も今日船出します。社長から受け継いだ夢に向かって”

木野は片倉に決意を表し、ゆっくりと目を開けた。
「井上さん、お願いします」

黙祷を終えた木野の合図で井上は船のエンジンを欠けた。
そして遺灰がまかれたところを大きく2周し、ゆっくりと港へ向け
舵を切った。

香織と琢朗、そして木野も、片倉が永遠に眠ることとなる膿をいつまでも見ていた。
しかし、3人の目にはもう涙はなかった。
片倉の望みを叶えることができたという充実感に包まれていたのである。

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